再生医療の目的

自己組織を蘇らせる

再生医療とは、病気や事故によって失われた体の組織や臓器の機能を、自分の細胞や組織を活用して蘇らせることを言います。例えば、取れても自然にまた生えてくる、トカゲのしっぽのようなイメージ。ただ、人間の治癒能力でそんなことは起こりません。そこで、医療技術を駆使して本来の機能や状態を取り戻すべく、再生医療が長年研究されています。

幹細胞を活用した再生医療

幹細胞が注目される理由

多分化能: 特定の細胞に変身(分化)する能力(肝細胞・骨細胞・心筋細胞・軟骨細胞・神経細胞・血管内皮細胞) / 自己複製能: 変身(分化)前に、自らを複製する能力(自己複製)

人間の自然治癒力でトカゲのように再生することはできません。ただ、再生しようと働く細胞や成分は、人間の体の中にもあります。そのひとつが、再生医療業界で今もっとも注目される「幹細胞」です。
幹細胞には2つの能力があります。ひとつは、長期間にわたり自らを複製させる能力。もうひとつは、特定の細胞に分化する能力です。つまり、組織や臓器の損傷した部分を補う可能性を秘めているのです。
では、なぜこんな細胞が体内にあるのに、人体はトカゲのように再生することができないのでしょう? その理由としては、幹細胞の数が少ないこと、人体の構造が複雑であることなどがあげられます。しかし、幹細胞の研究が進み、医療技術に取り入れることが可能になりつつあるのです。実際、心臓疾患や乳房再建、血管再生、創傷治癒など、様々な疾患において臨床研究が行われ、その有効性が確認されています。変形性膝関節症もそのひとつというわけです。

代表的な幹細胞

現在、世界中で研究が進められている代表的な幹細胞に、次の4つがあります。

iPS細胞
山中教授のノーベル賞受賞で知られる幹細胞。
体細胞に4つの遺伝子を加えて作製される。
ES細胞
ヒトの胚(受精卵)から採取する幹細胞。
受精卵を使用する倫理観で意見が分かれる。
HS細胞
造血由来幹細胞とも呼ばれ、血球系細胞に分化できる。
骨髄から採取し、白血病治療に活用。
ADS細胞
脂肪組織から採取する幹細胞。他の幹細胞源に比べ、
採取できる幹細胞量が多いのが特徴。

当外来では、ADS細胞(脂肪由来幹細胞)を変形性膝関節症の治療に活用しています。

血液を活用した再生医療

自然治癒の力に注目

当外来では脂肪由来幹細胞の他、血液に含まれる血小板や成長因子に着目した再生医療も扱っています。そもそも傷を治す働きを持つこれらの細胞や成分を活用すれば、自身の治癒能力による損傷修復が期待できるのです。
慢性化した関節の痛みへの有効性も確認されていて、整形外科ではすでに広く知られています。代表的なのが、PRP治療。メジャーリーグの田中将大投手が受けた治療と言えば、ご存知の方も多いのではないでしょうか。

変形性膝関節症における再生医療のポジション

保険診療の問題点

保険適応範囲での変形性膝関節症の治療を見る限り、それだけでは選択肢が十分とは言えません。なぜなら、内服や注射などの保存療法か、膝にメスを入れる手術療法かの二択しかないからです。これでは、保存療法の適応外に進行した変形性膝関節症患者も、手術に踏み切るまでは、すでに有効ではなくなった治療を漫然と続けるしかないのです。

従来治療の実態
症状が軽い間は緩和治療(内服・注射療法・運動療法)が漫然と続けられるが、進行し、症状が重くなると手術療法を行うしかない

当外来が再生医療を取り扱う理由

当外来では、この「選択肢が少ない」という状況が、変形性膝関節症を悪化させている要因のひとつであると考えています。もちろん、すべてを再生医療で治療できるわけではありません。人工関節置換術という選択肢も必要でしょう。しかし、この新しい選択肢が加わることで、変形性ひざ関節症の痛みの改善に加え、従来の処置よりも進行を遅らせるという効果をのぞむことはできます。
こういったことを視野に入れ、当外来では再生医療による変形性膝関節症の治療を行っています。

当院が提案する治療
症状が軽い間は緩和治療(内服・注射療法・運動療法)を行うが、症状が重くなり手術療法を行わざるを得なくなる前に変形性ひざ関節症外来の再生医療という新しい選択肢が加わることで、変形性ひざ関節症の痛みの改善に加え、従来の処置よりも進行を遅らせるという効果をのぞむことはできます